日の丸金魚
菊池 功
 我が家の水槽に紅白の美しい金魚が五匹元気に泳いでいる。九四年七月九日、 向井千秋さんと宇宙に飛んだ六匹の金魚と兄弟であるとの証明書つきの貴重な ものである。
 名古屋から近鉄で約十分ほどの所に弥富町という三十万匹の金魚の故郷があ る。その弥富金魚漁業協同組合長の三輪守夫さんがこの宇宙金魚の生みの親で ある。縁あってプレゼントを受けた。
 向井さんの実験に同行する金魚はやはり真鯉ではいかん。日の丸にちなんだ 美しい紅白の金魚がよく似合うと三輪さんは考えた。
 三輪さんの宇宙実験へのつながりは十三年になるそうだが、その間本業の金 魚を宇宙実験用に育てるのに苦労された逸話は数多く語られており、又多くの 金魚も参加している。最後にスペースシャトルに乗せるたった六匹の宇宙金魚 を選ぶために、千二百匹を提供した由である。
 宇宙金魚とのご縁が出来たので、早速関係のデータ集めを秘書嬢の協力で始 めてみると、現地漁協の皆さんはもとより、宇宙開発事業団より資料をFAXで、 ニフティーサーブで新聞情報を調べると忽七十件近くの記事が九四年七月頃の ものとして出て来た。向井千秋著『メダカと飛んだ15日』も手元に届き、この 全てに六匹の金魚のレポートが報ぜられている。
 三輪さんはスペースシャトルが宇宙を飛んでる間、絶えず空を眺め「日の丸 金魚」の無事を祈ったそうである。
 北九州市では今、航空宇宙産業への想いが強いと聞く。新しい将来事業とし ての可能性をもつ都市である。然し新しい事業を興し、成功させ、定着させる ことは必要ではあるが困難なことが多い。この宇宙金魚は、宇宙産業とは言え ないかも知れぬが、現実は宇宙開発研究である。然し事業としてみれば新規技 術開発であり、新市場開拓と言えよう。本業を大切にその新しい展開発展を考 えゆくことこそ貴重である。
 小さな金魚にかけた大きな夢。その蔭で多くの方々の並々ならぬ努力、そし てそれを見た世界の人々の喜び、まさに二十世紀の美学と言えよう。残り二千 日を切った栄光の今世紀も、最終コーナーで多くの問題が発生しているが、 「日の丸金魚」は宇宙時代となるだろう新しい世紀への光となる「忘れられな いこと」に私には思える。 
菊池 功
昭和3年7月9日生
大分県中津市出身・東京都杉並区在住
〈好きな言葉〉「心」