二つの賞
谷 伍平
 市長という仕事をながく仰せつかっていますと、辛いこと、苦しいことを山 ほど体験しますが、それらは己の人間修業に役立ったものとして胸に納め、こ こでは市民全体にとってよい思い出となる出来事を記させていただきます。
 第一は「緑の都市賞」(総理大臣賞)を受けたことです。
 この賞は昭和五十六年に財団法人「都市緑化基金」が創設したもので、北九 州市も早速名乗りをあげましたが、第一回は神戸市が受賞しました。当時市民 一人当たりの都市公園の面積は、わが市が六平米で、神戸は十平米を超えてい ました。翌年も申請して、見事第二回の総理大臣賞を獲得しました。決定の知 らせがあったときは、為我井公園緑地部長と手をとりあって喜んだものです。
 市は公害対策と並行して、四十七年度を初年度とする「グリーン北九州プラ ン」という長期緑化計画をたて、公園の増設・市街地の緑化・自然の保護に力 を入れ、緑ゆたかな産業都市の実現をめざしておりました。その努力と実績が 認められたわけです。
 翌年一月の神戸大震災で、市街地の公園が延焼防止に大きな効用を果たしま した。わが街も、一層近隣公園、地区公園の増設に努めねばなりません。
 第二は、日本建築学会創立百周年記念の「文化賞」を受けたことです。
 明治十九年に辰野金吾博士らが集まってつくった日本建築学会は、昭和六十 一年に百周年を迎えました(その時の会長は、芦原義信東大名誉教授)。学会 は、記念事業のひとつとして「会員外で、広く建築文化の向上に貢献した者」 に「文化賞」を授与することになり、不肖私が他の二人の自治体首長(静岡県 知事、福島県三春町長)とともに、帝国ホテルで皇太子殿下ご臨席のもとに彰 状を頂戴しました。百年に一度の栄誉でありました。
 表彰理由は「文化の香る緑ゆたかな産業貿易都市へ向けて、公共建築物の建 設誘致、都市機能の充実を精力的に展開、市営住宅建設に際しては、久岐の浜 ニュータウンの公開設計競技を実施し、歴史的建築物の保存にも努力するなど、 二十年間にわたり建築文化の発展に寄与した」という懇切なものでした。もと より、みの破格の栄誉は、百万市民の支持があって、はじめてかち得たもので、 市民は今後もますます美しいまちづくりに邁進していただきたいと望んでやみ ません。
谷 伍平
大正5年10月1日生
福岡県直方市出身・北九州市在住
〈好きな言葉〉「毎日が初日」