少年倶楽部
花田 徳行
『少年倶楽部』という雑誌があった。数年前、復刻版が出たけれども、実物
を手にとって読んだことのある人はもう六十歳前後をすぎた人たちばかりであ
ろうと思う。
山中峯太郎の「敵中横断三百里」「亜細亜の曙」「大東の鉄人」。吉川英治
の「神州天馬峡」平田晋作の「新戦艦高千穂」。佐々木邦の「苦心の学友」高
垣眸の「怪傑黒頭巾」。田河水泡の「のらくろ」。島田一男の「冒険ダン吉」、
それに山口将吉郎や高畠華宵、樺島勝一らの挿絵がついていた。
昭和の初期のことであるからすでに六十年以上も経っているが、いまでもこ
れらの名前や題名がすらすら出てくるので、少年時代の私にこの雑誌がいかに
強烈な印象を与えたかがおわかりいただけると思う。
付録が毎号ついていて、それも楽しみの一つであった。エンパイヤステート
ビルやドイツの巨大飛行艇ドルニエ・ドックス号の模型など、これを組み立て
るのが一仕事であったが、それに要する忍耐心や根気はその後の自分に少なか
らず役立ったような気もする。
小説や読みもののほとんどは勧善懲悪であり、勤勉努力であり、愛国心養成
であり、当時の風潮としてもちろん軍国主義的であった。しかし、同時に当時
の少年の夢を限りなくふくらませ、未来に希望を与えたという点では、私はい
い雑誌であったと思うし、いまでも老人同士が集まると少年倶楽部の話になる
のは、忘れられない共通の思い出の最大のものであろうと思う。
私は少年時代を若松ですごした。市役所や武徳殿の傍らに公会堂があり、あ
る夜、そこで「少年倶楽部読者の集い」があった。少年倶楽部の歌の発表があ
り、全員で歌った。六十数年前のことで、歌詞は忘れたが、一節だけなぜか覚
えている。それは
夕月淡く影さして
川の流れを照らすとき
少年倶楽部ふところに
鍬を洗って土手に立つ
ぼくらは二宮金次郎
というものであった。もし全部覚えている方がいらっしゃったらどうか教えて
ください。
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花田 徳行
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大正10年10月10日生
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北九州市出身・福岡市在住
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〈好きな言葉〉「平歩 青天」