身勝手な思い
入谷 泰生
当社は今年で開業以来四半世紀を迎えますが、ふり返ってみますと、当然の
ことながら色々と紆余曲折がありました。
石油ショックの後の金融がタイトな時期だったと思いますが、グループの関
係で設備投資が続き急激に資金調達がふくらんだ時がありました。従来から船
舶の資金調達は、政府系金融機関を中心として民間の協調融資とで融資団を作
るというのが通例でした。当時経理課長だった私は、専務と一緒にそのうちの
一つの銀行に出向き従来通りの借入れの申込みをしました。
当社は社長の方針もあって、創業当初よりあまり借入先を増やさず、既存の
借入先と友好な関係を保ってきたつもりでありました。そんな中で、その銀行
は一番新しい取引先で二、三年前に先方から強力に取引を要請してきた経緯が
ありました。
その時同行した専務が「当社は借入先を絞って他へは浮気をしていません。
ですから従来通り協調融資に応じて下さい」という旨を申入れた処、出て来た
担当課長が「借入先を絞るといわれても困ります。こういう時には他にも窓口
を増やすべきです」とつっけんどんに言われたのです。
当時若かった私は、今迄調子のいいことを言ってきておきながら、いくら金
融事情が逼迫してきたからといって、こんな手の平を返した様な態度はないも
のだ、と怒ったものでした。
結局その後支店長に会い、傍系の生保の資金を導入することで借入金は支障
なく調達できましたが、その生保の見返り保険がつくというおまけがつきまし
た。そんな事もあって、その後の金融緩和期にもその銀行との取引は縮小しま
したが、担当者も支店長も何代か変る中で、その熱意もあり最近は、少しずつ
増えて来ています。そういう意味では銀行も損な判断をしたものだと思います。
しかし、後になって冷静に考えてみると、その課長の応対の仕方は気に入り
ませんが、言い分としては無理もないのかなと言う気がしてきました。
客観的な情勢が変っているのに我々は気がつかなかったのです。経営環境は
常に変るのです。それと商売というものは自分の都合ばかりではうまくいかな
いのです。相手の立場、相手の身になってみないといけないということです。
今になって見れば当り前のこと乍ら、若い私にはいい教訓となりました。
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入谷 泰生
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昭和21年11月26日生
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香川県坂出市出身・兵庫県西宮市在住
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〈好きな言葉〉「我を諂諛する者は我が敵なり、我を非とする者は我が師なり」