店はお客様のためにあり
深町 勝義
 私が商業を志して四十年。「忘れられないこと」とはなんだろうと、振り返 る時、数多の思い出は、どうしても「店はお客様のためにあり」ということに 集約されるのです。仕事上の勉強にしても、日常の思考、行動にしても「お客 様のために」という商業道の原点に帰結する思いがしてならないのです。この 思いは私が根っからの商業人の所以なのでしょうか。その視点に立つと、昭和 四十五年、チェーンストアの勉強のために初めてアメリカを訪れた時のことを 思い起します。
 戦後五十年。廃虚と化した日本が、今日の経済発展をみるに至った過程では、 経済先進国のアメリカを見習って努力すればよかったのです。つまりアメリカ が先生だったのです。
 ところで、当時のアメリカは既にモータリゼーションの時代。ショッピング センターでは、とにかくクリンネスが最高、フレンドリーも優れたものでした。 当時の日本といえば、まだ大量交通機関の時代であり、物を作れば売れる時代 でした。
 私はこの視察を通じてこう予感したのです。高度成長時代に入ろうとする日 本も早晩アメリカ並に車社会がやってくる。そうなれば郊外型ショッピングセ ンターが生れ、さらにロードサイドには広大な駐車場。そんな姿が脳裡に浮か んだものでした。お客様にとって、店は広々として美しく、従業員が親しみや すく、快適に買物を楽しんでいただく。そのような店づくりを常々心掛けては きましたが、この視察でさらにその思いを深めたことでした。
 それから四半世紀を経た今日、特に百貨店、量販を核とするショッピングセ ンターでは1500台の駐車場を、ホームセンターや専門店でも150台前後の駐車 場を持たないと商売にならなくなっているのです。
 車社会の到来は小売業の形態を確実に変えました。また、海外商品を含む商 品の多様化が流通の世界を大きく変え、さらに変化は続くでしょう。今後は競 合というより真の競争時代です。
 しかし、この変化への対応策「答」はあるのです。それは、店の第一線にお けるお客様とのコミュニケーションの中から出てくる「生の声」「お客様の声」 を一つひとつ拾い上げて次の経営戦略に生かすことです。お客様の「クチコミ」 にならない店に発展はないのです。「店はお客様のためにある」、その理念を 肝に銘じてこれからも歩み続けるつもりです。 
深町 勝義
昭和7年11月16日生
山口県下関市出身・北九州市在住
〈好きな言葉〉「プラス発想」「店はお客様の為に有り」