フェアかどうか
山田 康雄
父から教えられた言葉としては高校生の頃だったでしょうか、「男として卑
怯なことはするな」と言われた事が、ずーっと頭にこびり付いて残っています。
男性間の事なのか女性との間の何かを注意されたのか記憶にないのですが、い
ずれにせよ私にとっては「男として」が大変に重い意味を持っており、その後
の私の人格形成に大きな影響を与えたようです。
大学卒業後たまたま商社に入りましたが、商社では一貫して貿易関係の仕事
に携わって来ました。御陰で十年間程海外勤務も経験させてもらい、欧米系の
外国人の考え方にも色々と慣れ親しむ貴重な体験も得ることができました。海
外で教わったことは沢山ありますが、その中でも特別に忘れ難いのが、「フェ
アかどうか」という思考形態です。思考形態と言うほど大げさな事ではないの
かも知れませんが、米国を中心とした白人の社会では、単に「公平かどうか」
という以上の重い意味を持って使っているようです。時にはフェアが「正義」
そのものであり、又「善」であったりしますが、「正義」とか「善」をも含ん
だそれ以上の重い意味を持った社会倫理とでもいうのでしょうか。
例えば、西部劇で有名な悪漢のビリー・ザ・キッドが、保安官のパット・ギャ
レットに誤って背中を射たれて死亡するのですが、フェアじゃないという事で、
今もってビリー・ザ・キッドに人気があるのは、「正義」以上の重みを持って
いるからだと考えられないでしょうか。
白人の使うフェアという意味を未だ正確には理解していませんが、私自信は
社会生活、人間関係、会社経営等の全てにおいて、一番重要な判断基準として
大切にしていきたいと考えています。
昭和六十二年にたまたま経営者の端くれに加わりましたが、経営者の心構え
として、一番自分に合う指針を幕末の佐藤一斉先生の「重職心得箇条」に見い
出し座右の書としていますが、日常は半歩前進一歩後退のくり返しで、人間と
して段々退化して行っているのではないか、ふと考えさせられることがありま
す。
そんな時、この座右の書をじっくりと繙くと共に、親父に教わったわすれ難
いひと言「男として「ゥゥィ を思い起し、また海外勤務で体験した「フェア かどうか」を自ら問い直すことにしております。
忘れられないことと言うより忘れ難い言葉というべきでしょうか。
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山田 康雄
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昭和16年1月18日生
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福島県会津若松市出身・北九州市在住